宵の口、ぼくは母に少し出かけると言って昔行った神社へ向かった。
子供の頃、縁日に祖父と数回しか行ったことのない稲荷の神社は
広葉樹がざわざわと風と共に騒ぎ少し肌寒い感じがした。
怖い、という感じはしないがどこか不思議な感じだ。
ぼくは自転車を石段の脇に止め、金魚燈を手にその石段を登る。
すると、神社の奥の森の方から賑やかな話し声や太鼓や笛の音色が聞こえて来た。
足が速くなる。
好奇心と恐怖が入り交じって感覚が麻痺を起こしているようだ。

「人間がこんなところに何をしにきたんだ? 」

石段の中間に来たとき、急に声が聞こえた。
ぼくはハッとして石段の上に顔を向ける。
すると、石段の一番上に青年が立っていた。
少し古めかしい格好の、とても整った顔の綺麗な青年だった。

「聞こえているのか?何をしてるって言ってるんだ。見えてるんだろ? 」

見えてる?
この青年は何を言っているのだろうか。
ぼくは頭を悩ませた。
もしかしてこの青年も目には見えないあやかしの類いなのか。
納得したぼくは青年を見上げる。
すると青年が口を開く。

「お前、今日が何の日か知っていて来たのか?知らなければ何をしに来た?」

「今日何があるかは知らないが、俺は、祖父の遺言である物をある人に返しに
来たんだ。でも、俺はその人の顔も声も何も知らない。 どうすればいいか考えていた」

「…お前は何を返しに来たんだ?」

「小さな金魚、祖父は金魚燈と呼んでいたんだけど…どうしてそんなに聞きたがるんだ?」

小さく、「金魚燈…」と呟くと、青年は黙り込んだ。
少し何か考えているようで、思い出そうとしているようだった。

「…お前の祖父の名前は、もしかして月臣と言う名前じゃないか?」

ぼくはぎくりとした。
正しく祖父の名前だ。
この青年は祖父とどういう知り合いなのだろうか。
 

続きます!!

 

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