そして家に帰るとまた昔のことを思い出した。
ずっと忘れていたこと。いや、忘れたと思い込んで錯覚していのかもしれない。
20年前―。
ぼくがまだ幼かった頃。
ぼくには目に見えない様々のものが見えていた。
そのときのぼくはそれが普通目には見えないものだということがわからなかった。
母は言う。
「もう、お祖父ちゃんの真似をして。そんなものいないの、どこにもいないのよ」
ぼくは反論する。
「でも、本当にいるだもん。ぼくには見えてるんだから」
母はぼくに目を向けず祖父に顔を向けた。
「まったく、お義父さん。貴方がそんなこというからたくみまで真似するじゃありませんか…」
母が祖父を責めた。
祖父は悪びれるふうでもなく、
「おぅおぅ、それはすまんかったのう。悪いことをした」
笑って謝った。
母が出かけてからぼくは祖父に言った。
「ぼく嘘なんか吐いてない。ちゃんと見えるのに」
「ふふふ、わかっておるよ。たくみにはちゃんと見えておる。
だがな、たくみ、お前には見えていても、見えない人もいるのじゃよ」
「どうして?」
「ふふ、さてどうしてかな」
あのときのぼくは祖父を信じなかった。
きっと本当はいないのだと、脳が作り出している
幻覚なのだと思い込もうとした。
それからぼくは、それらが見えると耳を塞ぎ、
目を閉じ、口を閉ざした。
まるでどこかのお猿みたいだ。
そして今になってやっと気がついた。
そうか、だから祖父はぼくにだけ金魚燈を見せてくれたのか。
あれは普通目には見えないものだったから。
だからぼくにしか返せないのか。
続きます!!