忘れられた奥深く寂しい森には、<水晶の森>という名前が付いている。
その森には幾つもの美しく神秘的な水晶が群生していて、一際大きく、
そして月を映し出す一番美しい水晶がある。
その水晶には<月光水晶>という名前が付いていて、何百年もの昔、
月の神(マーニ)とある一人の少年が交わした契約があった。

「本当にいいんだな?契約するとお前の身体はなくなってしまうのに、

水晶の中で永遠に生き続けなければならなくなるんだぞ」

念を押すように、月光神は目の前にいる少年に言葉を投げ掛ける。
少年は静かに頷き、懇願するように答えた。

「僕は、それでも構わない。だからどうか…」

月光神は少年の答えに少し悲しむように、眉をひそめながらも
願いを受け入れた。

「分かった。…契約は成立だ。永遠の命をお前にやろう。
けれど代償は言った通りだ」

何もかもに納得をしたように少年は黙って頷く。
そして三日月の夜、少年と月光神の契約は成立した。

「ありがとう…月光神」

少年は最後にそれだけ言い残すと静かに瞳を閉じた。
月光神は少年と契約をしてからも何度もこの少年を閉じ込めた
月光水晶の元へ訪れた。
もう何を呼び掛けても少年が応えることはなかったけれど。
そしてやっぱり願いを受け入れなければ良かったと月光神は深く後悔した。
少年が応えることはないが、水晶を通して少年の心が読み取れてしまう。
少しずつ心が壊れてゆく少年。
そしてそんな少年の心に触れているうちについに月神光の心は壊れてしまった。
少年と契約をして、月光神が姿を消して何百年もの月日が流れた。
一人の少年がこの忘れ去られた深き森へとやって来た。
水晶が群生するとても美しい、そして悲しいの森の中へと。

「ここが水晶の森…」

美しいほどにたくさんの水晶がまるで木々のように生えている。
少年は一つ一つ水晶を手に触れて眺める。
少し歩くと三日月湖という三日月の形をした湖があり、湖の下にも
小さな魚達と共に美しい透を称えた水晶が群生していた。
少年は息を呑む。
湖を泳ぐ小さな魚達はみんな、小さな小さな水晶を纏っているのだ。
水晶魚と呼ばれる水晶の森の三日月湖にしかいない魚達。
この他にも、水晶の森で長く生息しているうちに身体に水晶を纏うように
なった動物たちは、この森でしか生きられない。
森を出るとたちまち息絶えてしまうのだ。
少年は少し魚達と戯れると、また何かを思い出したように歩き始めた。

続きます。→2

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